自然科学とジェンダー(5月15日、担当:山田久美子)
全学共通科目「男女共同参画社会とジェンダー」の5回目の授業が、5月15日(木)5限に行われました。
今回は、個別領域ごとのジェンダーの問題を扱う各論部分の1つとして、「自然科学とジェンダー」と題して、生物学者で浜松医科大学非常勤講師の山田久美子先生に、動物学から見た性、セクシュアリティ、ジェンダーの諸問題を論じていただきました。染色体や遺伝子の視点から人間の性の分化のメカニズムが解説され、そのきわめて多様な実態が明らかにされて、人間の性が決して男女に二分されるものではないことが示されました。また動物と人間に共通の性指向と、人間固有の性指向のさまざまなパターンが具体的に提示され、人間固有の性指向が文化や歴史に多大の影響を受けている事実が論じられました。そして、手術を受ける時に男女で、また国によって、その態度が大きく異なったり、痛みを我慢する態度にも同様の差異が認められるなどといったさまざまな事例から、とくに社会的、文化的な性別役割としてのジェンダーがいかに多様で変化するかといった観点や、19世紀の人類学者たちの作り上げた、人類の祖先の狩猟生活とその基盤となる家族の形態や性役割についてのイメージが、当時のジェンダーによる大きなバイアスを持ったものであったという事例から、ジェンダーに支配されているといかに正しい学問的見方ができなくなるかという実態などが、詳しく明らかにされました。いずれのテーマに関しても、多くの興味深い事例を取り上げながら大変具体的でわかりやすい講義が行われました。
次回は、さらにこうしたジェンダーの視点から、歴史全般の捉え方に存在してきたジェンダー・バイアスと、それに代わる新たな歴史的視点に立った女性史の展開について、平井和子先生による「歴史とジェンダー」の講義が行われる予定です。
受講生の声
国際関係学部・2年・女性
「人間は男性、女性の2つにしかわけることができない」というのはありえないと感じました。生物学的に「間性」という性が証明されていることを知りました。そのことがまだ世間に知られていないからアンケート用紙などには「男or女」の欄しか設けられていないのだと思いました。間性として生まれてくる人たちはごく少数で、わたしたちにとっては珍しい、特別だと感じるかもしれません。しかし、わたしは反対に「男or女」として生まれてくることが特別なことなのではないかと思います。すごくもどかしい表現になってしまうかもしれないけれど、「男or女」として生まれることが世間では一般的になっていることは事実だと思います。だからこそ、間性の人たちは「男or女として生まれてきたわたしたちが特別だ」と思うのではないかと思いました。
下着や靴泥棒のフェティシズムの人たち。気持ち悪い、変態と思いますが、これもまた人間の性質の1つなんだなと思いました。もちろん、いけないことだというのはわかっているけれど、そういう人もいるということを理解しなければならないと思います。
薬学部・1年・女性
今回の授業を受け、“ジェンダーとしての性”のみならず“生物学的な性”においても、男女の間に明確な境界がないのだと知り驚きました。性分化を決定するには性染色体だけではなく、受精卵からの発生の過程における様々な要因が関わっていて、その過程がどこかで異常を生じると男性への分化が進まない事が起こりうるのだと知りました。そして、私が今まで思っていた以上に多くの数の男性の身体的特徴をもつ女性や、女性の身体的特徴をもつ男性が存在するのだと学びました。
日本では欧米に比べて、生物学的に女性と男性の間に位置する“間性”と呼ばれる性を持っている人の存在があまり認識されていないのではないかと思います。そのような方々にとって暮らしやすい環境づくりをする為にも、正確な知識が世間一般的に普及することが大切であると考えます。ジェンダーにおいては、社会・文化・時代によって「男らしさ」「女らしさ」と考えられている特徴が大きく異なり、また性的指向のないアセクシャルな個性は育つ環境により作り出す事が出来ることも分かっています。
これら全ての事を考えると、生物学的な性差にも多くの個体差があり、育つ環境によりまた別の様々なジェンダーが形成されるという、「男性・女性とは何か」というテーマの奥深さを感じました。
経営情報学部・1年・女性
性染色体異常の説明の際、XXの女性やXYの男性を指すとき、「『ふつうの』女性・男性とは言いたくないのですが・・」と先生がおっしゃっていたのが印象的でした。確かに、私も間性の存在は知っているのですが、間性でない人を『ふつうの』女性・男性だと無意識のうちに捉えてしまいます。また、性指向にも様々なものがあるにも関わらず、異性愛が『ふつう』であると思ってしまいます。
ある一つの事例だけを見て、例えば、「男が仕事で女は家庭だなんて古い。ジェンダーだ!」と思ったとしても、今回学んだような性に関する知識が不足していたり、医学の発展や法整備によって進化する時代に自分の意識が追い付かないと、知らず知らずの内に自分の中で『ふつう』が固定化されて、別のジェンダーに支配されてしまう危険性もあると考えました。
国際関係学部・1年・女性
今回の授業は、自分が知らなかったことや普段何気なく使っていた表現の正しい意味を知ることができた。例えば、男性や女性の他に間性という性別があることは全く知らなかった。精神的に男性でも女性でもない人はよくテレビに出たりしていて知っているが、身体的に間性の人がいるのは初めて知った。また、フェティズムやサディズム、マゾヒズムなどの表現は、くだけた言い方で友人との会話に出てきていたが、よく意味も分からずふざけて使っていたので、今回の授業で実際の意味を知って驚いた。死体愛というのも初めて聞いた言葉だったが、酒鬼薔薇事件の犯人が死体を見て興奮したという供述をしていたという話を思い出した。授業で人間だけの指向の例を聞いているときに気持ち悪いという感覚になったが、実際にそういう人もいるから、ますます人間を男と女だけで分けるのでは足りないのだと気付いた。
最後に、「昔の日本では男が狩りに出て家族を養っていた」という考えは間違っていたと聞いて驚いた。そのような社会だったと私も当然のように思っていたので、自分もジェンダーに支配された考え方をしている1人なのだと気付いた。今までの授業を通して、将来的に性差別をなくし男女平等を実現したいと考えていたが、その前にまず自分のジェンダーに支配された考えを正すべきなのだと思った。
国際関係学部・1年・女性
私はXXとXYの性の種類しか知らなかったので、実際にはターナー症候群やクラインフェルター症候群など様々あることや、染色体は男性だけど体は女性、などという例もあると聞いてとても衝撃を受けた。また性指向についても、私の今までの知識ではヘテロセクシュアルとホモセクシュアルくらいまでしか知らなかったので、アセクシュアルという性指向がないものがあることや、フェティシズム、死体愛など人間特有のものもあると知って、一気に自分の中で性への見方が変わり、視野が広くなった気がした。また私たちが習った狩猟民族の説 明も、ジェンダーに支配されているもので、ジェンダーに支配されていると物の本質が見えなくなる、ということがよくわかった。本当に複雑な性があり、そんな中で昔のように男女で区別する考えが通用するはずないなと、ジェンダー平等の必要性を改めて理解できた。
国際関係学部・1年・女性
今までの講義とはかなり異なる視点からジェンダーについて考えることができ、とても新鮮だった。生物学的にみても性というのは実に多様であり、「男(女)なのだから、こうあるべき!」などという固定的なジェンダー意識がいかにおかしく、視野の狭いものであるかを改めて感じた。
また、マイノリティやマジョリティというのは、たまたま一方が他方よりも数が多かったり少なかったりするだけで、優劣とは全く関係のない考え方なのだという事が分かった。