労働とジェンダー(6月5日、担当:居城舜子)
全学共通科目「男女共同参画社会とジェンダー」の8回目の授業が、6月5日(木)5限に行われました。
今回は、「労働とジェンダー」と題して、NPO法人男女共同参画フォーラムしずおか代表理事、元静岡県労働委員会委員、元常葉学園大学教授の居城舜子先生をお招きして講義をしていただき、最もジェンダーによる差別が激しい労働という領域の課題についてさまざまな角度から論じていただくことができました。
授業は、「女性労働の現状と課題」が副題として掲げられ、現代日本の女性労働を取り巻く諸問題が多くの統計的データや資料に基づいて、実証的かつ批判的視点から論じられました。女性労働の現状については、量的には拡大しながらコース別雇用管理と非正規雇用の増大の中でより底辺化してきている女性の労働者の実態や、先進国の中でずば抜けて大きい男女間の賃金格差、働く女性の多くが陥っているワーキングプアの深刻な実状などについて、詳しく説明がなされ、法律の整備にもかかわらずまだ残るその対策の不十分さが強調されました。特に、現政権の成長戦略政策の重要な柱としての「女性の活躍促進」が喧伝される中、導入が取りざたされている「限定正社員」制度の導入や、長時間労働についての規制緩和の流れなど、労使の不対等な関係性の中での格差や女性の貧困化を拡大するような政策の方向の問題点などが厳しく指摘されました。そして、日本型雇用と伝統的な家族・社会保障システムに横たわるジェンダーがこうした現状を生み出してきた背景であり、そのシステムが機能マヒを起こしつつある現在、積極的でフレキシキュリティ型の労働市場と共働き・共家事・育児分担型家族という新しい日本のシステムへの転換が強く求められていることがまとめとして指摘され、これから社会へ出て労働市場に進んでいく学生たちがもっとこうした実社会の動きに敏感になり、若者と女性の立場からどんどん声を挙げていくことの大切さが強調されました。学生にとっては自分たちの将来に直結する課題を深く考えさせられる契機となる講義となりました。
次回は静岡市女性会館館長でジャーナリストの川村美智先生による「マスメディアとジェンダー」の講義が行われる予定です。
受講生の声
薬学部・1年・女性
今回の授業を受け、近年の政府の政策である「成果主義の推進、雇用維持から労働移動限定正社員への移行の推進、解雇規制緩和、労働時間規制の緩和」という実力主義を重んじる雇用制度改革と、一方での「女性が輝ける日本の実現、女性の活躍推進」という政策の間には矛盾があるように感じました。なぜならば、ジェンダーとしての女性の役割が家事・育児をすることだという考えが根強く残っている状況でこのような実力主義を重んじる政策をとるならば、子育てや家事の為に労働時間の制約を強いられている女性は大変な無理をしない限り、男性と同じ地位を得ることは難しいと思うからです。
当然ながら、家族の理解と協力のある女性や、仕事に重きを置いている実力のある一部の女性のみに平等が実現するという状況になると思います。まずは「女性が家事・育児をするべき」という考えから、「二人で家事・育児をするのが当然だ」という考えに社会全体が変わることが第一歩であり、そうでなければ格差が広がる一方であると感じました。
そして、「男性の方がお金を稼いでくるのだから、女性が家事をして当然」という理由でますます女性が仕事に重きを置けなくなるという悪循環が起こるのだと思います。私たちは社会の動きを自分自身の問題としてしっかり捉えて、自分から声をあげていかなくてはならないと感じました。
食品栄養科学部・1年・女性
今回、女性労働の観点からジェンダーを考えてみると、女性がいかに劣った労働力として見られているかが分かった。今の労働環境は圧倒的に男性に有利なものである。セクハラや育休に対する法が整備されてきているが、逆にそれ故に女性は煙たがられる存在になってしまっている。女性労働における差別を克服するためには、法の浸透と、女性の立場への理解、労働環境の改善が必要だと感じた。少子化の進行を防止するためにも、女性は出産することが求められている。産休をとりやすく、再就職しやすい制度を作ることで、出産により女性が不利な立場になることを防がなければ、少子化は止まらないだろう。安倍首相の政策で女性の地位の向上を目指しているが、指導的立場になれる女性はごく一部だ。もっと下位にいる、母子家庭のワーキングプアの人々に目を向けるべきだと思った。
国際関係学部・1年・女性
朝、通学途中にスーツ姿の女性たちをよく目にする。女性の社会進出が順調な証拠だと思っていた。しかし、この授業を聞いて、年齢別の労働力、雇用形態、賃金格差など問題はまだまだ山積みなのだと分かった。先日、女性のパワハラやマタハラについてのニュースを見ていたら、相談センターに寄せられた内容に「女性の上司から育休から明けてから復帰しても同僚に迷惑だから退職したらどうかと言われた」という女性の話があった。女性の社会進出を目指しているのに、女性同士のパワハラやマタハラがあるのはとても悲しいことだ。現在、安倍首相が女性の社会進出のために政策を行っているが、それが裏目に出ているのではないかという懸念もある。私が社会に出るときに女性の労働状況がどうなっているのか心配だが、いい方向に向かっていくことを期待したい。
国際関係学部・1年・女性
居城先生のレジュメにもあった、女性の貧困を取り上げたNHKスペシャルを私も実際に観たところだったので、今回のテーマは他人事とは思えなかった。何かと男女平等については政府でも考えられているようだが、女性が“輝く” “活躍する” 社会が目に見える形で実現されているのか。グラフでもわかるように、そのような変化は微々たるものである。そして特集を観たときも感じたが、本当に貧困は連鎖してゆくものである。目の前の雇用状況の改善ばかりでなく、これから社会を担っていく子供たちの為、十分な教育を受けられるような具体的な支援や取り組みも活性化させ、問題の根っこから立て直してゆくべきだと思った。
国際関係学部・1年・男性
労働という私たちがこれか必ず進んでいくであろうことと、それに伴う女性差別、また女性という枠組みだけでなくて現代社会の労働形態の問題点を知ることができたのでとても良い機会であった。先生のおっしゃた通り、年功制という賃金体制は休養や一時的な退職などの理由で比較的離職をすることの多い女性に不利であり、女性を職という面で活躍していくのを妨げている大きな要因の一つだと思った。そして、仮に男性に焦点を当てて考えたとしても、多様な職種と働き方が存在する現代社会においては一つの仕事を継続しなければ昇進できないような仕組みではこれからより多様・複雑化していく世界の動きに対応できないと思われる。
政府の改善案として成果主義の推進があげられていたが、どこかで見たことにある評論の中に、やった仕事に対する報酬を渡す成果主義では、不景気になった場合に何かノルマを達成してもそれに値する十分な報酬が払われず、そのことによって労働意欲が低下する、またその成果をだれが判断するのか、というような問題も出てくるとあったので、一概に成果主義をそのまま採用するのは違う問題点が発生すると思うのが、とりあえず、現状打開に向けては「新システムの構築」が必要であると思う。これからもいろいろな話を聞いて議論していきたい。
食品栄養科学部・1年・女性
静岡県は大卒女性の働き口が少ないと言うのは衝撃でした。私は浜松市出身なので、県内で就職したいと思っていましたが、違う場所で働くことも考えたいと思いました。私は結婚しても働きたいと思っています。しかし、女性と男性とでは賃金の差や仕事内容の差があることを知り、このままの状況では私もやめてしまうかもしれないと思いました。育児休暇をとるならやめてしまえという企業が身近にもあることを知り、このような企業や社会であるから子供の人数が減っているのだと思います。女性が働く環境の改善、雇用先を増やすことを進めてほしいです。
また私はアルバイトをしています。私のアルバイト先でも人が少なすぎてかなり1人の負担が大きいです。すき屋のような事が起こらないか不安です。