性暴力とジェンダー(7月3日、担当:伊田広行)
全学共通科目「男女共同参画社会とジェンダー」の12回目の授業が、7月3日(木)5限に行われました。
今回は、「性暴力とジェンダー」と題して、神戸大学・立命館大学・愛知淑徳大学の非常勤講師でデートDV防止ファシリテーターの伊田広行先生を大阪からお招きして講義をしていただきました。まず、最近の恋愛の実態としてのデートDVの定義や典型例の紹介などが行われ、ストーカーの増加などに触れられたた後、デートDVが力による支配であり、相手の安心、安全、自由、自己決定、成長を奪う行為であることが説明され、デートDVレベルや種類、また、なぜ相手と別れられないのかの根拠等が具体的に論じられました。
そして、このような現代の恋愛実態の背景には、そもそも現代の社会が教える普通の恋愛論自体に潜む危うさという大きな問題があることが指摘され、そこから「パートナーがいて幸せ」「愛する二人は一体」といった個人の自立を否定する価値観が生じ、さまざまな問題が生み出されていることがわかりやすく論じられました。さらに、それに対する対案として、対等な関係性を作り出すためには、これまでの恋愛観から脱却し、恋愛を相対化して、あくまでも「ひとり=自立」を基本とするシングル単位的な関係をめざし、多様な人が多様に生きられる社会を築いていくことの重要性や、とくにDVのグレーゾーンの段階から対等な関係へ適切に移行していくことの大切さが説かれました。
豊富な具体例とわかりやすい丁寧な説明による講義の後、学生からのさまざまな質問にも熱心に答えていただき、現代の恋愛や結婚に潜む根本的な問題点について、出席した学生があらためて自ら認識を深めていく上で、多くの新しい視点を提供してもらえた充実した授業となりました。
次回は、NPO法人男女共同参画フォーラム静岡の代表理事で、前静岡市女性会館館長の松下光恵先生から「市民活動とジェンダー」について講義が行われる予定です。
質疑応答
講義終了後に、受講生からの質問を募集し、講師の伊田先生にご回答いただきました。
受講生の声
国際関係学部・1年・男性
実際に付き合っているという人たちは何人もいて、私から見るとすべて幸せそうに見えるが、そうではなく、日々苦しんでいる人も稀ではないということが分かった。考えてみれば、恋愛相手が異性と仲良くしている姿を見ると怒ったり行動を規制させたりするなんて言うことは身近でもあった気がする。どんなに相手を好きでも、基本的には人それぞれが自立した人間であるということを頭に入れることが重要であることも分かった。
また、例えば、相手に別れを告げた時、別れるなら私は死ぬよというセリフを言われたときどうするかという質問があったが、私も同じ疑問を持っていた。伊田先生は「あなたが死ぬのはいやだ。でも、そうやっておどすような関係ならこれからも上手くはいかないんじゃないかな」というような説得力のある回答をした。そのような場合は、相手を尊重した上で説得力のある事実をはっきり言うことが大切だと分かった。それに実際、別れて死ぬ人なんてそうはいないはずである。ほとんどが束縛する策略なのだから。
薬学部・1年・女性
私は今まで、自分はDVとは無縁でやってきたと思っていました。しかし今回の講義を受け、こんな事でもDVにつながり得るのだと驚くものが多かったです。例えば自分が加害者となり得たのは「今どこにいるの?誰といるの?」などと過度に詮索したことがある事です。一方で被害者となり得たのは、写真を撮ることを強要されたり、女性っぽい服装は着ないように言われた事などです。自分だけでなく、友人や家族でも思い返せばDVを受けていたのではないだろうか、と思い当たる事があります。
恋愛とは本来、お互いを尊敬し合えて精神的にも一緒に成長出来る素晴らしいものであるべきです。相手の事を思いやれなくなると、それはもう恋愛ではなく独占欲であるので、まずは本人たちがそうなってしまっている事に気付き改善する努力が必要であると感じます。しかし一方で、独占欲の強い事を“深い愛情”と勘違いしてしまう事も、愛している人が相手だと尚更起こりうると思います。周囲の人は、「それは愛情ではなくDV行為になりうる」という事を伝えてあげる事が、更なるDV被害を広げない為にも重要であると感じました。相手に精神的・経済的に依存しすぎる事も、自分の意見が言えなくなりDVにつながる可能性が高まります。しっかりと自分の意見を持って、お互いに自立した関係を保つ事も重要であると実感しました。
国際関係学部・1年・女性
今回の講義で、デートDVがとても身近なものであるとわかりました。私が考えていた、激しい束縛や暴力などはもちろんデートDVですが、「自信を奪う」、「怖がらせる」言動も一種のデートDVであると知りました。そう考えてみると、講義の中で聞いた事例ほどではなくても、私自身思い当たる節がありました。私も相手に「嫌だ」ということをあまり言えなかったのですが、我慢を続ける関係では対等な恋愛とは言えないと思ったので、しっかりと意見を言い合える関係でありたいと思いました。
また、「対等な関係」とは干渉しすぎないことが大事である、という話にとても納得しました。恋愛関係にあると相手のことを全て知りたいと思いがちですが、それがまた束縛に繋がっていくのだと思います。今、「リア充」という言葉が定着し、彼氏・彼女がいることで充実する、1人は嫌だ、と思う人が多いかもしれませんが、焦るのではなくしっかりと対等な関係をつくるべきだと感じました。
国際関係学部・2年・男性
DVはとても身近なものだと思った。誰でも加害者になる可能性は高いから、若いうちにデートDVの存在を知っておいてよかった。独占することによってしか愛を感じられない関係の危険性が身に染みた。恋愛と個人のライフスタイルの尊重が両立できる自分でありたい。また、健全な関係を作り出すという意味では、アサーショントレーニングが効果的だとも思った。
ジェンダーに基づくDVはとても起こりやすい。しかしそれ以上にそれをおかしいと思うことも中々しにくいほどジェンダーの考え方は私たちにしみこんでいることが問題だとも思った。デートDVの問題に立ち向かう際、自尊心が低い被害者などは、相手を責めているような気がしてしまったり、自分の考えすぎだと捉えてしまって支配され続ける場合もあると思う。いじめにしろパワハラにしろDVにしろ、被害者のカミングアウトばかりが行われていて、加害者の方の責任に中々焦点が当てられていないことが多い。自分が被害者になったらどう対応するか、DV被害者をどう救うか、そしてDV加害者をどう救うか。これは時間をかけてゆっくり考えるべきだと感じた。そんな複雑かつ繊細な問題を解決するために加害者の更生に取り組んでいる伊田さんはすごいと思った。誰もが時間をかけてプログラムを受ければ、必ず更生できると思う。そう信じたい。
国際関係学部・1年・男性
特に男性の場合「彼女は俺だけのものだ」と思い込み、彼女を束縛する傾向が強いように感じる。実際デートDV被害者は女性のほうが圧倒的に多い。男性が彼女を束縛するということは彼女の権利を侵害していることであるのに、女性はそれが愛の証であると自分に言い聞かせることが多い。本当にお互いが愛し合っている関係にあるのなら、相手のことを信じているから束縛を強制する必要はないはずである。本当の恋人の関係をもう一度見直していくべきであると感じた。また恋人関係においての問題である殺人にも注意を払う必要がある。恋人のことで警察に相談しに来た女性がしばらくして恋人に殺害されるという事件が後を絶たない。悪いのは殺害した側だが、相談を受けたにもかかわらず事件を未然に防げなかった警察側にも少なからず責任があるように感じる。以前に比べ恋人間の問題に関する法整備が進んできてはいるが、地方でのそれに対する意識はまだまだ低いのが現状だ。万が一の場合を考え警察側も適切な対処をしていかなければならないと感じた。
国際関係学部・1年・男性
先生の実体験からお話しされていて、まさに誰にでもDV被害者・加害者になる可能性があるなと思った。DV被害者・加害者になるかどうかはDVと言うものを知っているかどうか、その認識によってかわる。DVという行動を「それはDVだ」と認識すること・できることは、被害者から対策できることのみならず、加害者自身にもその行動を抑制させることができることを多く学べた。そして、もしそうである場合、社会にDVの撲滅や「男女平等」を求めるのであれば、より多くの人々に広く認識してもらわなければならない。この問題の解決に当たっては、少なくとも第一歩として、特に教育の場からもっと発信されるべきだと思う。なぜなら人は教育などを通して知恵や道徳などの経験を享受し、人格を形成していくのであるから、DVと言う言葉すら知らない人、また言葉は知っていてもそれが何なのかを知らない人たちにこそ、より多くの危険性と可能性を持っていると言えるからである。教育の現場等では、教える側は自分の育った環境ではこのような新たに認識され始めてきたことは、多くの場合習ってこなかった等で、DVも含めて「新しい枠組み」に芯から浸透していない等の問題もあるだろうが、大事なことは社会において正しい情報をしっかりと伝えていくことだと思う。