歴史とジェンダー(5月25日、担当:平井和子)
全学共通科目「男女共同参画社会とジェンダー」の6回目の授業が、5月25日(木)5限に行われました。
今回は、個別領域ごとのジェンダーの問題を扱う各論部分の2回目になります。「歴史とジェンダー」をテーマに、一橋大学非常勤講師で女性史研究家の平井和子先生に、「日本史をジェンダーの視点で眺めてみれば---」というタイトルで、古代から近代、現代に至る日本の歴史をジェンダーの視点、とくに女性史の流れに即しながら再検討していく、という講義を行っていただきました。
フラッシュカードや豊富な史料、パワーポイントの画像などを駆使しながら、原始・古代には高かった日本の女性の地位が、中国の家父長制の影響を受けた古代国家の成立や中世の武家政権の成立、さらには近代国家の確立とともに次第に低下してきた過程が、数多くの事例を通してわかりやすく論じられました。またその中で、古代にはより自由で対等だった結婚のあり方や、ヨーロッパ人の目から見た庶民女性の高い社会経済的地位を持って自由に活躍する様子や、子育てを重要な役割と考えた下級武士の生活、子育て支援や介護の担い手としての家長・男性への評価が行われた近世期の施策などがわかりやすく示されました。そして、庶民層におけるジェンダー多様な実態が、近代になって大きく変化し、男性については徴兵制によって暴力技能の優劣を男らしさの基準とするジェンダーが形成される一方で、良妻賢母教育と主婦の登場によって女性の地位が最も低下した時代を迎えた事実が、明治民法の家制度における女性の低い地位の具体的な問題点などを例に詳しく論じられました。
さらに、第二次世界大戦中の国家による性と生殖の管理による人口増加政策の実態などが、当時の静岡県の新聞記事などから具体的に紹介され、出産奨励に止まらず結婚奨励にまで及んだこうした政策の問題点が浮き彫りにされました。その上で最後に現代の政府による少子化対策の流れを確認する作業の中から、近年政府の少子化対策の中に新たに結婚支援政策までが組み込まれてきている現状が内閣府の動画の紹介を通して論じられ、はたしてこうした最新の動向の中に、戦前の人口政策との関連でどのような問題が存在しているのかということに関する問いかけがなされ、各自がこの課題にジェンダーの視点から取り組むことの大切さが強調されました。全体を通して、歴史におけるジェンダーの視点の重要性を深く認識できる講義となりました。
次回は、「結婚・家族とジェンダー」について人口問題の視点から、本学学長で歴史人口学の第一人者である鬼頭宏先生が講義される予定です。
受講生の声
薬学部・1年・女性
今までの授業で、昔の日本はジェンダーに対して寛容だったというのを耳にしていたが、今回の授業で女性が天皇や首長になれたり、同性愛が受け入れられてたり、という具体的な事実を知り、今の日本とは真逆だったのだと改めて認識しました。結婚に関しても今の日本ではありえない対偶婚という形をとっていて驚きました。日本の少子化対策のために進められている結婚支援は、必要なことなのかなとも思うけれど、古代の日本のようにジェンダーに対して寛容な考えを国民全員がきちんと持ってからの方が良いのかなとも思いました。結婚をしたいと思っているが出来ない人に対して、結婚支援をしていけば良いと感じました。
経営情報学部・1年・女性
今回の授業を受けて、まず注目した点は、「律令国家の発展と共に女性の地位が低下していった」ことである。推古天皇や斉明天皇など歴史上で非常に重要な人物が、国の発展のためにと尽力した結果として、自分自身を含めた女性の地位が低下してしまったこと、政界での発言力が失われてたことなど、当時の彼女らには、きっと想像すらできなかったと思う。平安時代の有名な歌人である清少納言や紫式部でさえ、名前という名前はなく、また、菅原孝徳女などと、いかに社会が男性中心であったかが分かった。教養に至っても男性優位にあるのは、昔から受け継がれてきたものの可能性がある。日本の歴史を見てみることで、男女の格差というものを痛感した。
しかし、かつての方が、現在より寛容な社会であった例も多々あり、出産や育児についてどこか他人事のようになっている現代ではなく、歴史から学び、もっと女性に優しい時代にしていかなければならないと感じた。
国際関係学部・3年・女性
授業の冒頭で、平井さんが歴史上の有名な女性たちを黒板に貼ってくださったときに、数の少なさに驚いた。男性に比べて女性の権利が排除されていたことが如実にあらわれていた。中世から女性の権利が失われ、戦時中には女性の意思を無視した“多産”の計画など、国家がいかに女性に残酷な扱いをしていたかが分かった。政府は現在では結婚に重きを置いているようだが、グローバル化に伴いLGBTQの問題も発生しているため、対策すべきものが多く解決には時間がかかると感じた。