結婚・家族とジェンダー~人口問題の視点から~(6月1日、担当:鬼頭宏)
全学共通科目「男女共同参画社会とジェンダー」の7回目の授業が、6月1日(木)5限に行われました。
今回は、個別領域ごとのジェンダーの問題を扱う各論部分の3回目になります。本学学長の鬼頭宏先生を特別講師にお迎えし、「結婚・家族とジェンダー~人口問題の視点から~」と題して、結婚・家族の変化とそこに強い影響を与えているジェンダーの役割について、ご専門の歴史人口学のお立場から人口問題という視点を通して考察していただくという、貴重な機会となりました。
まず、前半冒頭では、ご自身のこれまでの研究歴を振り返られながら、江戸時代の人口変動という本来の研究テーマから離れて近年次第に現代の人口問題について見解を求められる機会が増えたこと、しかし現代の問題を考える上で歴史研究をやってきたことが大きく役立っていることなどに触れられました。そして現代日本で最も重要視されている人口問題として人口減少の問題が取り上げられ、その動向の特徴や将来推計が説明された後、その背景には男女の差、つまりジェンダーが大きく存在していることが指摘され、それに関連する多くの人口学的なデータが示されました。そして、平均寿命の男女較差の歴史的変化や、江戸時代における死亡率の男女差などのデータに基づきながら、それらの差が決して自然現象ではなく、社会的要因によるジェンダー問題がその背景にあることが丁寧に説明されました。さらにそのジェンダー問題を克服するために国連のカイロ会議以来重視されているリプロダクティブ・ヘルスと女性のエンパワーメントの重要性が強調されました。
そして後半では、現在日本社会において重大な課題となっている少子化に焦点を当て、それが日本において避けがたい必然の現象だったという観点から、さまざまなデータを用いて、①社会が豊かになると出生率は下がること、②主要先進国では1970年代半ばから集中して少子化が進んだこと、③それにも関わらず、その後現在までに出生率の回復をある程度果たした国と低出生率が続いている国の2つのグループが分かれてきたこと、が指摘され、そうした分化の原因として、それぞれの国の家族類型、ひいてはジェンダーのあり方が大きな影響を与えていることが明確に論じられました。特にエマニュエル・トッドの著名な家族類型論から酒井順子の「儒教と負け犬」まで、さまざまな視点を駆使して、日本、韓国、中国といった東アジアの超少子化社会を強く規定している性別分業、家父長制家族のジェンダーの問題点が明らかにされた後、未婚化の大きな要因として「結婚したくてもできない環境」を生み出している正規/非正規という労働格差の問題や、さらにそこにも存在するジェンダー格差の問題が指摘されました。そして、最後に少子化の克服を目指す上で、その背景にあるジェンダーの転換、子育ての公的支援・地域支援の充実、ワークライフバランスの達成、男性の家事・育児への参画が今こそ求められていることが強調され、若い世代へ向けて「提案」と「行動」が大切であることをまとめのメッセージとして全体が締めくくられました。
数多くの歴史人口学的データから現代の人口関連の統計データや各種の調査結果を縦横に用いた丁寧な実証的分析を基に、現代日本の結婚や家族をめぐる社会問題の解決を、人口問題の視点からジェンダーを鍵概念として用いて図っていこうとされる社会科学研究者としての学問的姿勢に、多くの学生が貴重な知的刺激を受けることができた充実した授業となりました。
次回は、「教育とジェンダー」について、元静岡県立吉原高等学校長でジェンダー研究家の奥山和弘先生が講義される予定です。
受講生の声
国際関係学部・3年・女性
日本の人口問題が、国の財政事情に関係しているだろうということは認識してはいたものの、過去に人口増加抑制が政策の一つとして存在していたのには驚いた。しかし、現在では、人口が「減りすぎ」ている。政府は、これに対してなんらかの対策を立てる必要がある。また、グローバル化に伴いジェンダー観も日々変化している現在、男女が受け入れやすく、実行しやすい対策をとることが、社会を変える大事な一歩となると思う。
自分の将来にもジェンダー問題は必ず関係してくると思う。自分も選挙に参加するなど、静岡のジェンダーの政策については敏感でいるようにしたい。
経営情報学部・1年・女性
私は今回授業を受けて、豊かになると出生率が減ることに疑問を感じた。特に日本では若い頃はお金の問題で子供を作るのを後回しにする人が多いのに、なぜ豊かになると子供を生まなくなるのか。現在では出来ちゃった結婚と聞くと、白い目で見られがちだが、昔は出来ちゃった結婚が多く、それが出生率にかかわってくるためいいのではないか。悪いイメージを持っていたりと物事を何かと批判しがちなのもいけないと思う。その様なイメージは親からのしつけなどで思い込まされることが多い。イギリスやフランスなど出生率が1.8以上ある国では父親の子供への干渉が弱く、また男性と女性の間での差が日本に比べて少ない。日本ではまだ何かと差別が多いため、女性が思うように生活を送れなく、それが低出生率の原因のひとつではないだろうか。