自然科学とジェンダー(5月10日、担当:山田久美子)
全学共通科目「男女共同参画社会とジェンダー」の4回目の授業が、5月10日(木)5限に行われました。
今回は、個別領域ごとのジェンダーの問題を扱う各論部分の1つとして、「自然科学とジェンダー」と題して、動物学者で聖隷クリストファー大学非常勤講師の山田久美子先生に、動物学から見た性分化、性指向、ジェンダーの諸問題を論じていただきました。染色体や遺伝子の視点から人間の性の分化のメカニズムが解説され、間性の存在などそのきわめて多様な実態が明らかにされて、人間の性が決して男女に単純に二分されるものではないことが示されました。また動物と人間に共通の性指向と、人間固有の性指向のさまざまなパターンが具体的に提示され、人間固有の性指向が文化や歴史に多大の影響を受けている事実、すなわちそれがジェンダーであることがあらためて強調されました。さらに、フェティシズムなどいくつかの人間特有の性指向がほぼすべて男性のみに現れ、中には犯罪化している性指向もあるという事実から、産業革命以降の近代社会が作り出した、男性に強さや人に優越することを求めるジェンダーによる強い抑圧がそうしたゆがみをもたらしていることが指摘されました。ジェンダーが地域、階層などによって大きな差異を示す実態が語られる一方、最近の社会が価値観がどんどん画一化、単純化し、多様性が失われることでますますジェンダーによる抑圧が強化されてきている実態が論じられ、そこに男性のみならず女性も巻き込まれつつある現状が厳しく指摘されて、私たちがこうした画一化する価値観と強化されるジェンダーにどう対抗するか、という重要な課題を考えるきっかけを与えていただく授業となりました。性の世界が私たちの想像以上に多様であることが明らかにされると同時に、それを男女二分法によって無理やり画一的な規範や制度の枠組みの中に押しとどめようとするジェンダーの問題点について、生物学の知見に基づき、多くの興味深い事例を取り上げて大変具体的でわかりやすく講義していただくことができました。
次回は、このような現代のジェンダーの問題性がどのような歴史的経緯の中で構築されていったか、またそれに対する対抗的思想や運動の流れにはどのようなものがあるのか、といった論点を中心に、犬塚センター長が「歴史とジェンダー」について論じる予定です。
受講生の声
経営情報学部・1年・女性
性指向に関しては人間独自のものがあるということを今回初めて知った。同性愛が動物界でもあるとは知っていた。同性愛に関してはある程度昔から今は認めてしまうと人口増加に悪影響を与えるという人も多い。しかし、かなり昔かや動物界では当たり前に同性愛が存在していてそのことによって人や動物の数が減ったという話は聞いたことがない。よって、やはり同性愛は人口減少の理由に成らず、またそれを理由に否定されることはなくしていくべきだと思う。
人間のみのセクシュアリティがジェンダーによる圧力から発生するという話を聞いて納得した。以前は男性のみだった、小児性愛、フェティシズムが女性にもぐ得ているのは確かに社会的圧力が強いことが原因だと思う。この二つの性指向は犯罪にもつながる。男性が被害者になることも増加するだろう。ジェンダーはすべての人間の問題だということをより一層理解できた。
食品栄養科学部・1年・女性
この講義を聞いて、男性になるか女性になるかはミュラー管退化ホルモンが受け取られるか取られないかの違いだけで、その過程で間性が生まれるのも自然なことであるということがわかった。動物にも人間のように同性愛が存在するが、普通に受け入れられているということも初めて知った。これらのことを考えると、人間が今当たり前のように性別を男性と女性の2つだけに区別しているのは不自然なことに思えた。人間特有の男性、女性という性別に対する固定された価値観の押しつけが、人間だけの性分化が出てきた原因になっていると聞き、今色々なところで問題になっている性犯罪もこれが影響しているとしたら、性別に対する認識について改めて国全体で考えていく必要があると思った。昔から根付いている考え方を変えていくのは大変だと思うけど、性別の違いを一人一人の個性のひとつとして考えれば、偏った価値観を押しつけることはなくなっていくと思う。