Top / 事業紹介 / 全学共通科目「男女共同参画社会とジェンダー」 / 2018年度「男女共同参画社会とジェンダー」結婚・家族とジェンダー~人口問題の視点から~

結婚・家族とジェンダー~人口問題の視点から~(6月7日、担当:鬼頭宏)

 全学共通科目「男女共同参画社会とジェンダー」の8回目の授業が、6月7日(木)5限に行われました。

 今回は、個別領域ごとのジェンダーの問題を扱う各論部分の3回目になります。本学学長の鬼頭宏先生を特別講師にお迎えし、「結婚・家族とジェンダー~人口問題の視点から~」と題して、結婚・家族の変化とそこに強い影響を与えているジェンダーの役割について、ご専門の歴史人口学のお立場から人口問題という視点を通して考察していただくという、貴重な機会となりました。

 まずはじめに、現代日本で最も重要視されている人口問題として人口減少の問題が取り上げられ、出生率の低下を中心にその動向の特徴や将来推計が説明された後、その背景には男女の差、つまりジェンダーが大きく存在していることが指摘され、それに関連する多くの人口学的なデータが示されました。そして、平均寿命の男女較差の歴史的変化や、江戸時代における死亡率の男女差などのデータに基づきながら、それらの差が決して自然現象ではなく、社会的要因によるジェンダー問題がその背景にあることが丁寧に説明されました。さらにそのジェンダー問題を克服するために国連のカイロ会議以来重視されているリプロダクティブ・ヘルスと近年の国連のSDGsに関する目標にも挙げられたジェンダー平等の重要性が強調されました。

 そして後半では、現在日本社会において重大な課題となっている少子化、出生率の低下に焦点を当て、そこには3つの要因があることが指摘されました。すなわち①死亡率と出生率がともに低下する人口転換が起こり、②主要先進国では1970年代半ばから集中して少子化が進んだ背景にある「成長の限界」への意識の変化とそれに伴う出生抑制が発生したこと、③それにも関わらず、その後現在までに出生率の回復をある程度果たした国と低出生率が続いている国の2つのグループが分かれてきた原因として、それぞれの国の家族類型、ひいてはジェンダーのあり方が大きな影響を与えていることが明確に論じられました。特にエマニュエル・トッドの著名な家族類型論から酒井順子の「儒教と負け犬」まで、さまざまな視点を駆使して、日本、韓国、中国といった東アジアの超少子化社会を強く規定している性別分業、家父長制家族のジェンダーの問題点が明らかにされた後、未婚化の大きな要因として「結婚したくてもできない環境」を生み出している正規/非正規という労働格差の問題や、さらにそこにも存在するジェンダー格差の問題が指摘されました。そして、最後に少子化の克服を目指す上で、その背景にあるジェンダーの転換、子育ての公的支援・地域支援の充実、ワークライフバランスの達成、男性の家事・育児への参画が今こそ求められていることが強調され、若い世代へ向けたまとめのメッセージとして全体が締めくくられました。

 数多くの歴史人口学的データから現代の人口関連の統計データや各種の調査結果を縦横に用いた丁寧な実証的分析を基に、現代日本の結婚や家族をめぐる社会問題の解決を、人口問題の視点からジェンダーを鍵概念として用いて図っていこうとされる社会科学研究者としての学問的姿勢に、多くの学生が貴重な知的刺激を受けることができた充実した授業となりました。

 次回は、NPO法人男女共同参画フォーラムしずおか代表理事の松下光恵先生により「市民活動とジェンダー」の講義が行われる予定です。

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受講生の声

薬学部・1年・女性

 日本の出生率が低い理由の中に、金銭面での不安があると思った。学歴社会が未だ残り、高校、大学を卒業していないと就職もできない現状から、本当は何人も子どもを育てたくても、なくなく1人、2人にする人もいるのかもしれない。また、女性の社会進出はすすんでいるが、男性の家事・育児への参加はすすんでおらず、女性の負担が大きい上に制度も整っていないということも、少子化が進行したひとつの理由だと思った。

 講義のはじめにでたスライドの中で、寿命の性差がかなりあったが、それはなぜだろうと思った。現代になるにつれ性差がひらいていてとても不思議だった。

国際関係学部・2年・女性

 今日の日本では、食べ物が十分にあり医療が発達しているため、平均寿命が延び、とくに女性は男性より平均寿命が長いが、戦前期は女性のほうが早く亡くなる人が多かったと知り驚いた。これには、たくさん子どもを産まなければならない、家事も育児も農業もやらなければならない、栄養を取ることができる食べ物が十分にない、などのジェンダーの問題が深く関わっていたということがわかった。授業の最後に見た正規・非正規雇用別の未婚率のグラフでは、女性は正規雇用の人のほうが未婚率が高かった。これは結婚したいという気持ちがあっても、正規社員だと子どもができたときに休みが取りにくいのではないかといった、子育てをしながら仕事を続けることの大変さを考えるため、未婚や晩婚になるのではないかと思った。

食品栄養科学部・1年・女性

 昔の日本にも男女間の平均寿命の格差はあるものだと思っていので、昔は格差がなかったと知って驚いた。多産や重労働(農作業、家事、育児)、低栄養が原因で15〜19歳の年齢階層では女性の死亡率の方が高い傾向にあったというのは、正にジェンダーの問題だと思った。今はその様なことは起こっていないように感じるので、その点ではジェンダーの問題は改善されているという事ではないかと思った。

 1994年のICPD(国際人口開発会議)によって、人口と開発の分野における今後20年間の行動計画に合意したので、これからより平等になっていくことに期待したい。そのためには世界中の人々が個人の意思を尊重し、開発のすべての点において男女が平等な参加を保証されることが重要ではないかと思う。

看護学部・1年・女性

 E.Toddの家族類型という考え方はとても興味深かったです。主要先進国はどこも少子化が進んでいると思っていましたが、緩やか又は回復している国と、進み続けている国とに分かれていると知りました。家族は人の1番身近な社会だと思うので、その中の考え方は、国全体のジェンダーに影響しているのだと思います。また、女性は「収入が多ければ結婚しなくていい」と考えがちであるのに対して、男性が「収入が多いので結婚しよう、できる」と考えがちである、というのは、結婚後の女性が家政婦のような存在になってしまうからだと思いました。結婚が、2人で一緒に生きていく、ではなく自転車に2人乗りするようなイメージが強くあることを考えると、制度を変えれば改善されるというような単純なことではないと感じました。

食品栄養科学部・1年・女性

 経済が発展すると仕事が忙しくなって自分の時間が少なくなるのはわかるけれど、アメリカやフランスなど豊かになってからも出生率が回復している国もあるため、日本ももっと労働時間を少なくしたり、子育て支援を積極的にしていけば、少子化や人口減少を抑えられるのではないかと思った。正規・非正規雇用別の未婚率では、男女で大きな違いがあることに驚いた。正規雇用で働いている女性の中にも結婚したいと思っている人が多いと思うけれど、女性の場合は結婚や出産のタイミングで仕事を辞めるか続けるかという選択をしなければいけない場合が多いため、仕事をずっと続けたい女性は結婚をためらってしまうのではないかと思う。女性だけがそのような思いをする場合が多いというのは平等ではないので、現状を変えていく必要があると思う。

経営情報学部・1年・女性

 男女間の平均寿命の差が昭和戦前期以前にはあまりなかったということは初めて知った。確かによく考えてみると、その頃は衛生上や技術の面で出産は今よりも命がけだったし、それで命を落とす若い女性が多かった。さらに今回知った、ジェンダーによる食べ物の量、質の差も加わると男性よりも女性のほうが亡くなりやすい状態にあり、平均寿命に差がないのもうなずける。

 少子化は日本の社会問題だが、過去には人口増加抑制を目標にしていた。減少にいずれは転じると予測していたにもかかわらず、今ここまでの問題になっているということはこうなると考えておらず、何も対策をしていないからだろうか。少子化は女性の社会進出が原因でジェンダー問題になっている、女は家事、男は仕事という形に戻したほうが良いという意見も確かに聞く。ここで注目すべきところは先進国のほとんどで少子化は起こっているが、そこから回復している国があるということだ。日本は先進国の中でも女性の社会進出は遅れているほうだ。日本よりも女性が社会に出ている国でも出生率が高い国は少なくない。つまり、女性の社会進出=少子化と言い切ることはできないということだ。ジェンダー問題の解決と少子化の食い止めを二つ同時に行っていくことは可能だし、行っていく必要があると思う。