結婚・家族とジェンダー~人口問題の視点から~(5月16日、担当:鬼頭宏)
全学共通科目「男女共同参画社会とジェンダー」の5回目の授業が、5月16日(木)5限に行われました。
今回は、本学学長の鬼頭宏先生を特別講師にお迎えし、「結婚・家族とジェンダー~人口問題の視点から~」と題して、結婚・家族の変化とそこにさまざまな影響を与えているジェンダーの役割について、ご専門の歴史人口学のお立場から人口問題という視点を通して考察していただくという、貴重な機会となりました。
まずはじめに、現代日本で最も重要視されている人口問題として人口減少の問題が取り上げられ、最新の人口推計、戦後の出生力の動向などの具体的データに基づき、それらの特徴や将来推計が説明された後、その背景には男女の差、つまりジェンダーが大きく存在していることが指摘され、それに関連する多くの人口学的なデータが示されました。そして、平均寿命の男女較差の歴史的変化や、江戸時代における死亡率の男女差、インド亜大陸における男女の平均余命などのデータに基づきながら、それらの差が決して自然現象ではなく、社会的要因によるジェンダー問題がその背景にあることが丁寧に説明されました。さらにそのジェンダー問題を克服することの重要性が、『世界人口白書2016』に示された「10歳の少女の今が私たちの未来を決める」という言葉に象徴されていることや、近年の国連のSDGsに関する目標にも挙げられたジェンダー平等実現の必要性が強調されました。
そして後半では、現在日本社会において重大な課題となっている少子化、出生率の低下に焦点を当て、豊かな社会の実現が死亡率と出生率がともに低下する人口転換をもたらす一方で、その後現在までに出生率の回復をある程度果たした国と低出生率が続いている国の2つのグループが分かれてきた原因として、それぞれの国の家族類型、ひいてはジェンダーのあり方が大きな影響を与えていることが明確に論じられました。特にエマニュエル・トッドの著名な家族類型論をもとに、日本、韓国、中国といった東アジアの超少子化社会を強く規定している性別分業、家父長制家族のジェンダーの問題点が明らかにされた後、未婚化の大きな要因として非正規男性と正規女性に「結婚したくてもできない環境」を生み出している労働格差の問題や、さらにそこにも存在するジェンダー格差の問題が指摘されました。そして、最後に少子化の克服を目指す上で、その背景にあるジェンダーの転換、子育ての公的支援・地域支援の充実、ワークライフバランスの達成、男性の家事・育児への参画が今こそ求められていることが強調され、若い世代へ向けたまとめのメッセージとして全体が締めくくられました。数多くの歴史人口学的データから現代の人口関連の統計データや各種の調査結果を縦横に用いた丁寧な実証的分析を基に、現代日本の結婚や家族をめぐる社会問題の解決を、人口問題の視点からジェンダーを鍵概念として用いて図っていこうとされる社会科学研究者としての学問的姿勢に、多くの学生が貴重な知的刺激を受けることができた充実した授業となりました。
次回は、元静岡県立吉原高等学校長で、ジェンダー啓発の社会活動を続けておられる奥山和弘先生による「教育とジェンダー」の講義が行われる予定です。
受講生の声
国際関係学部・1年・女性
少子化問題の原因として未婚率の増加がよく取り上げられ、それを解決するために男女共同参画が推進される報道を頻繁に目にしますが、それを見て毎回違和感を覚えます。少子化は大きな問題ですが、出生率という数字だけにこだわるのならば、それこそ子供を産めない同性カップルの存在を認めない風潮は強まります。子供を産むことも結婚も義務ではありません。結婚も出産も、したいと思うのならばすればいいし、したくなければしなくていいと思います。ただ、結婚や出産を望んでも出来ない状況にある人達が多いのであれば、その背景にある職場の男女格差や非正規就業者の増加、そして家事·育児の女性への大きな負担の問題を解決しなくてはいけません。その結果として、少子化問題が解決されるべきだと思います。
国際関係学部・1年・女性
私は日本のジェンダーギャップ指数が149カ国中110位というのを知って、妥当ではないかと思ってしまいました。日本での私たちの暮らしには、ジェンダーギャップがありすぎると思うからです。それもほとんどが、わかりやすい男女差別ではなく、変わりつつある社会のなかで今もなお思考が昔のまま固まっている大人たちがそのことに気づかずに発信していることが多いように感じます。
例えば、勉強です。女に学はいらない!と豪語するほどの差別はあまりないけれど、大学を卒業して就職がうまくいかなくても、または大学に行かずに適当に就職しても、「女の子だから大丈夫」と、励ましてくれる人はまだたくさん存在します。もちろん悪気無しにです。また、私がよく聞くのは、「女の子なのだから料理くらいできないと」という言葉です。びっくりするほどナチュラルに使われていて、その言葉に疑問を抱かなかった自分が、今考えると怖いです。
これらの例はほんの一部で、このような小さな差別が今も根強く残る日本は、110位で当たり前だと思ってしまいます。そしてその誤認や悪気のない差別を変えていくのは私たちだと思います。生まれた時から差別的な考え方を持っている人はおらず、周りの大人や環境によって刷り込まれて持つようになるものです。私たちが大人になったとき、子供にどう教育できるか、どのような環境で育てられるのかが大事になってくるのではないか、と思いました。
国際関係学部・3年・男性
これまでの授業で、女性が子どもを産みにくい社会であることは理解していましたが、今回の授業で先生が示された具体的な数値を知って、この問題の重大性に気づかされました。「働き方改革」など、これまでの制度を大幅に変えていこうという取り組みが始まりつつありますが、それが合計特殊出生率に反映されないのであれば、もっと大胆に制度の改定や創設をするべきだと思いました。具体的には、金銭面や労働環境の改善などで支援を行い、子どもを産みやすい社会にしていかないと、人口は転がるように減るばかりだと思います。
国際関係学部・1年・女性
世界人口白書(2008)の表を見て、香港や韓国、シンガポールなどの国が、日本よりも出生率が低いことが意外でした。また、鬼頭学長のおっしゃっていた、丙午の迷信は初めて聞いたことだったため、迷信によっても出生率は減少したりするのだと思い、出生率減少の理由というのは様々なものがあるのだなと思いました。しかし私は、今日のお話を聞き、出生率が低下しているからといって、これからの目標を、「子供を増やす」という目標1つに決定してしまうのはあまり好ましくないと思いました。ある国会議員が、"同性愛者の人は生産性がない"という発言をしたことが以前ニュースになりました。日本が、あまりにも子供を増やすということに重きを置きすぎてしまうと、日本は同性愛者の方々にとって住みにくい窮屈な国になってしまいます。人口増加ももちろん大切なことですが、同性愛者の方々が傷ついたり不安を抱いたりせずに済むような国づくりをすることも重要だと思います。先日、台湾でアジアで初めて同性婚が合法化されました。日本もそのくらい、同性愛に対して寛容になるべきだと思いました。
また、働きながら子供を育てる人のことについても深く考えました。企業側は、仕事をしながら育児をする人に向けた設備をもう少し考えるべきだと思います。例えば、企業内保育所を設けるなどすれば、より多くの人が子育てと仕事を両立することができるのではないでしょうか。今では、もう既にそのような設備を設けているところをありますが、企業内保育所の制度が"当たり前のこと"になれば、より豊かな仕事、また子育てができるのではないかと思いました。
国際関係学研究科・研究生・女性
世界を普遍的に見ると、女性の寿命は男性より長いということはほとんど常識です。男女間の平均寿命の違いが発見されたのは19世紀後期でした。違いの原因は、染色体の構造問題である遺伝子と女性特有のエストロゲンの作用です。社会的な要因、ジェンダー的な要因も考えられます。それは男性が抱えている責任が大き過ぎることで、この要因は改善できることだと私は思います。確かに今では、女性も積極的に社会に進出しています、しかし、この社会システムの中で、女性の社会的地位はまだまだ男性の地位には及ばないと思います。男性は女性より大きくストレスを感じ、悪い生活習慣に染まりやすいです。一方、ストレスは心血管疾患の原因の1つでもあります。今の社会で、男性は非正規就業者であれば結婚しにくい、逆に女性は非正規就業者であれば結婚しやすいという現状から見ると、男性と女性はまだまだ性別役割分業に縛られています、そして、このジェンダー的な現象こそが男女間の寿命の違いをもたらす重要な要因だと思います。
国際関係学部・3年・男性
鬼頭先生の専門分野である統計の観点から、様々なデータの収集とその分析(日本の現状を示すデータや日本と他国とを比較したデータなど)を通して、日本の男女参画社会の推進が、多くの点で欧米諸国に比べて大きく遅れていることを学び、以前の授業でも学んだことであるが、今の社会においては形式的な平等を保障するだけでは男女格差を大きく改善することには限界があり、欧米諸国に学び、クォータ制などのアファーマティブアクション(結果の平等を達成するためのルール作りなど)を行い、国家や自治会が社会、人々を主導する形での男女共同参画社会の推進を図り、人々の意識や価値観に働きかけ、それらを変化させていことが重要なのではないかと思った。