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労働とジェンダー(5月30日、担当:居城舜子)

 全学共通科目「男女共同参画社会とジェンダー」の7回目の授業が、5月30日(木)5限に行われました。

 今回は、「労働とジェンダー」と題して、NPO法人男女共同参画フォーラムしずおか理事、元常葉学園大学教授の居城舜子先生をお招きして講義をしていただき、最もジェンダーによる差別が激しく、他の領域への影響も大きい労働という領域の課題について、さまざまな角度から論じていただくことができました。

 授業は、「女性労働の現状と課題」が副題として掲げられ、「女性労働はどこまで来たか」「女性労働の課題」の2つを大きなテーマとして、現代日本の女性労働を取り巻く諸問題が多くの統計的データや資料に基づいて、実証的かつ批判的視点から論じられました。はじめに、今年4月から一部施行されている「働き方改革」関連法の特徴として、労働への規制緩和と規制強化の両面の特徴を持った矛盾した政策の進行であることが鋭く指摘され、これらの法制度のきっかけとなった女性活躍推進法にも「並行する矛盾した政策の進行」が見られることなどが言及されました。そして、女性労働の現状について、日本の女性労働の基本的特徴として男性のみに適用される労働市場における日本的雇用と家族における性別役割分業というシステムが指摘され、それらが現在労働市場と家族の双方の大きな変化に伴って労働市場の不安定化や家族の多様をもたらし、包摂と排除・格差の同時進行という複雑な事態が進む中で、政策による格差や貧困是正策が不十分な現状の問題点が詳しく論じられました。

 そして、具体的には、未だに6割が離職しているという出産後の女性の就業継続困難の実態や、潜在的就業希望女性が315万人にも上る現実、コース別雇用管理のもとで総合職への女性採用率の低さや就業継続の困難さが指摘され、それらが低い女性の管理職比率を生み出しているという構造的要因が説明されました。また格差解消にはほど遠く先進国の中でずば抜けて少ない女性管理職比率という職場の現状、働く女性の多くが陥っている貧困の深刻な実状などについて詳しく説明がなされ、格差というより性差別が定着している日本の労働現場の深刻な課題が明示されて、法律の整備にもかかわらずまだ残るその対策の不十分さが強調されました。さらに、静岡県における女性労働の現状から見える特徴として、一見改善したかに見える管理職比率の低さも依然として続いており、M字型就業を選ぶ女性の多さも目立つという実態が指摘されました。そして、こうした労働市場における女性差別がこれまでの日本的雇用のあり方そのものに由来する構造的問題であり、小手先の改革ではそこからの脱却が難しいこと、両立支援やワークライフバランス支援だけでは女性管理職比率は増えず、そこに女性のキャリア形成に関するもっとポジティブ・アクション的な支援が必要なこと、などが論じられ、静岡県下事業所の女性活躍の課題調査結果から、長時間労働の是正が決定的に重要であり、底辺の女性母集団を増やし男女ともに労働時間を短くする取り組みが女性の両立とキャリア形成にとって不可欠という結論が導かれました。そしてその際、一番の課題として男性が大半を占める現在の中間管理職の意識改革が最も必要というポイントも厳しく指摘されました。

 これから社会へ出て労働市場に進んでいく学生諸君にとっては、自分たちの将来に直結する課題を深く考えさせられる契機となる講義となりました。

 次回は、NPO法人男女共同参画フォーラム副代表理事で元静岡新聞社編集局文化生活部専任部長の川村美智先生と、静岡新聞社経済部記者の石井祐子先生により「マスメディアとジェンダー」の講義が行われる予定です。

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受講生の声

国際関係学研究科・研究生・女性

 今の社会では自動化や機械化が進んでいるので、肉体労働は主な収入源ではなくなリました。体力の優劣と働く能力との間にほぼ関係がなくなったのであれば、理論上、男性も女性も平等に働くことができるはずです。しかし、就業や職場での不平等は依然として男性と女性を悩ませています。世界中の178ヶ国を基づく「働く女性の動向(2016年)」の調査結果によると、全世界の就業における性別差は1995年から2016年まででわずか0.6%しか縮小していません。2015年まで、全世界の女性の就業人口比率はたったの46%ですが、男性の就業人口比率は72%もあります。5億8600万人の女性は自営業か家庭での仕事をしています。そしてデータによると、職場での女性の待遇も男性よりかなり低いです。私から見れば、これは男性にとって絶対に有利ではありません。今の時代の女性は積極的に社会進出をしていますが、同時に、男性もより家庭に関わりたいと思っています。

国際関係学部・1年・女性

 今日のお話も初めて知ることが多く、驚くことばかりでした。特に思ったことは、自分はまだ男女差別について知らないことばかりだということです。労働においても、依然として男女差別が残っているということを知り衝撃を受けました。そして、賃金に関しては、男女で100:74.4と差があり、雇用形態については100:57.1と大幅な差があることも知りました。雇用形態の格差は、20年経過しても未だに改善が見られないそうです。このようなことから、日本は本当に、男女差別において非常に遅れている国なのだということを改めて感じました。以前、東京医科大学が不正をし、100人以上の女子や浪人生たちが理不尽に不合格になったことが問題となりました。ここで不合格となってしまった人々は、この時点でもうすでに自分の目指す職業に就く権利を奪われたも同然ではないでしょうか。女性だから、浪人生だからという理由だけでその人の夢を壊したり可能性を狭めてしまうなど決してあってはならないことです。

 男女差別に関する制度や法律を変えたところで、現状が変わらなければ全く意味がないと思います。その差別を少しでも減らすためにも、"知ること"というのはとても大切なことだと思いました。今の現状を知るということだけでも、差別撤廃の一歩につながるのではないでしょうか。わたしたち一人一人が意識し、知っていくことこそが非常に重要だと思います。わたしたち全員が差別問題に関心をもち、より敏感になるべきだと強く思いました。

国際関係学部・3年・男性

 政府の推進しようとしている「働き方改革」は、以前よりも労働環境を改善させられるかもしれないが、まだ多くの課題が残されていることを学んだ。また、今労働の現場で中心的な役割を果たしており、これから企業などの組織を上の立場となって率いていくであろう中間管理職の人達のジェンダー意識の改革が男女格差の是正において重要だというお話はよく理解出来た。

 これまでの授業での各先生方のお話も踏まえると、ハード面(規制の緩和や強化、法の改正や制度の改革などを通して、一定の強制力を持って人々の意識、行動を変化させることを目指す試み)とソフト面(学校や企業などでのジェンダー(解消に向けた)教育の推進など)での人々の働きかけが、今の社会におけるジェンダー意識を変えるのに重要だろうと実感した。人々の自主的な意識の変化に任せていては、状況が改善することは時間がかかるもしくは難しいと考えられるため、一定の強制力を持った施策は必要と言えるのではないかと思った。

国際関係学部・1年・女性

 真に女性が活躍する社会を実現させるためには、仕事のできる優秀な女性を引き上げるだけでなく、働くすべての女性を底辺から引き上げることが必要だということが分かった。能力の高い女性にだけスポットを当てていては、そうではない女性との間に格差が生じるだろうし、そのような社会は「女性が活躍している」のではなく、「活躍している一部の女性が目立っている」だけであるように思える。女性が働くことが当たり前になっている現代社会における「女性の活躍」とはどのようなものなのか、もう一度考え直したいと思った。

 また、性別役割的伝統的家族の考えを持つ中年の男性管理職と、妊娠・出産後も働きたいと考えている女性との間で意識のズレが生じ、そのせいで女性が働きづらくなっているという問題も興味深かった。女性側の意識だけではどうにもならないことがあるので、そこに対する理解と柔軟な対応を求めたい。

 今まで、労働という分野は自分には縁遠いものだと思っていたが、先月からアルバイトを始めたり、兄が就職活動に取り組んでいる様子を見たりしていたので、今回の講義では労働を今までよりも身近なものとして考えることができた。早くても3年後には自分も就職活動をすると思うので、今後も関心を持ち続けていきたい。